ロトの剣はなぜ「剣」なのか?
理由は明快だ。『ドラゴンクエストIII』で、後にロトと呼ばれる“光の勇者”の使っていた武器が「剣」だったからである。
もしも光の勇者が槍使いで、ゾーマを倒したときの武器が槍だったとしたら、ロトの剣ではなく「ロトの槍」と呼ばれていたはずだ。では仮に、光の勇者が金属アレルギーだったらどうだろうか。この場合、光の勇者の使える武器は竹やりかこんぼう、もしくはひのきの棒といった非金属製品になる。もちろん、防具も非金属のものしか扱えないだろう。ひのきの棒や軽い防具から連想されるのは魔法使いである。ひのきの棒使いである光の勇者は、「戦士+魔法使い」タイプではなく、純粋な魔法使いタイプになっていただろう。となると、光の勇者は魔法をメインにしてゾーマを倒すはずだ。この場合、光の勇者の子孫たちは、魔法使いとしての教育を受けて育ち、アレフガルドではゾーマを倒した“魔法”に重きをおいた伝承がなされていくことになる。かくして、ひのきの棒が“ゾーマを倒した武器=ロトの棒”として後世に残る可能性は低い。また、『ドラゴンクエスト』も魔法使いが主人公になり、RPGの主流にはなりえなかっただろう。
問題は、光の勇者が竹やりやこんぼうでゾーマを倒してしまった場合だ。この場合、光の勇者が使っていた竹やりやこんぼうに、“ゾーマを倒した武器”としての価値が発生する。結果として、ただの竹やりが、「ロトの竹やり」「ロトのこんぼう」などとして後世に伝わってしまうおそれがあるのだ。
苦しい旅路の果てに手に入れた“最強の武器”が、ただの竹やりだったら…。絶句である。『ドラゴンクエスト』を遊んだユーザーからは総スカンをくらい、『ドラゴンクエスト』がシリーズ化される可能性はそこでついえただろう。『ドラゴンクエスト』の対抗馬として『FF』が登場することもなかったはずだ。RPGの歴史はそこで潰えてしまい、『スーマリ&ドラクエ』の二大タイトルが牽引していたファミコンブームも盛り上がらなかったに違いない。
RPGファンは、光の勇者が剣を使えたことに感謝しつつ、しょぼい武器でラスボスを倒すことのないよう、細心の注意を払ってゲームを進めてほしいものだ。何がきっかけでゲームの歴史が動くのか、誰にもわからないのだから。