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「全ファミ。」ブログ編

デバッガー時代の日記が出てきました。

面白いので転載。

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1996年6月下旬

 フロム エーに「RPGテストプレイヤー募集」を見つけた。
 メインは企画/プログラマーの募集だが、これまでの経験でどちらもできないことを悟っている俺にはテストプレイヤーしかなかった。
 早速電話をかけてみた。
「あなたは企画のほうでやっていかれたいのですか?」
「いえ、私は生涯一テストプレイヤーでいきたいと思っています」
 電話先の人物は俺に興味を持ったようだ。あっさり面接の日時が決まった。

 面接といえば、光栄を受けたとき、実力テストのようなものを受けさせられたが、「こんなもので俺の能力は測れねえ」と用紙に書き、5分も経たないうちに退出した記憶がある。
 で、大小様々な会社を受けたがことごとく落ちたので、追いつめられた俺は、とある会社にスキンヘッドで面接に行くことを決心したのだ。
 スキンヘッドという特殊な容姿で面接を受けることで、「採るか、採らないか」の選択の余地を自ら狭める背水の陣。それは見事に当たり、ばっちり採用されたのだった。
 そこはAという小さな会社だったが、企画志望だったのにプログラマーにされてしまう。さらに、ストレスで本当にスキンヘッドになりはじめたし、あまつさえ残業代も出なくなったので、あっさり辞めてしまった。

 その後、様々なイベントが俺を待つのだが、それはさておき面接である。
「君だよね、生涯一テストプレイヤーっていうのは」
「そうです」
 そこから俺の売り込みが始まった。
 RPGは100本くらいやったこと。
 複数のマシンで同時にRPGをプレイできること。
 一日20時間、一週間通して働けること。
 デバッグに命を懸けていること、などである。
「君、落語家みたいで面白いね」
 一生懸命な奴ほど愉快に見えるってやつか?
 ま、褒め言葉と受け取っておこう。
「君がヤル人だというのはよく分かりました。後は、デバッグっていうのは腰の低さと協調性が重視されるわけだけど、その点、君の軽そうな感じがちょっとね」

 弱点をつかれた! 

 だが、ここであせっては好印象も無になってしまう。
 俺は落ち着いたフリをして答えた。
「大丈夫です。私はプロのデバッグですから」
 冷静になって考えてみると、金ももらってないのにプロもヘッタクレもないのだが、生涯一が決め手だったようだ。
 今まさに、俺のデバッグロードが始まろうとしていた。


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勢いとインパクトだけで勝負やねぇ。いやあ、今も昔もバカデスネー。

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1996年7月下旬

スタートからラストまで通しプレイをビデオに取るようディレクターのDに指示された。
俺は、意気込みを見せるべく、ディレクターに言ってみた。
「デバッグは100%任せてください」
Dは、冷ややかな目で俺を見て、口を開いた。
「200%任せられるかどうかはあなた次第だけどね」
人を見下すこのしゃべり。俺とOは”凍てつく波動”と名付けて恐れたものである。
ま、さらりと聞き流して通しプレイを始めてみた。
4時間後、あっさり飛んだ。
ディレクターがにこにこしながら、俺に話しかけてきた。
「あ、それバグがあって結構大変だと思うけど頑張って録画(と)ってね。もちろん、最初からよ」
熱いことを言ってくれる。
修羅場になればなるほど強くなる俺の底力を見せてくれよう。
それから数日、これまでのゲーム人生の中で、もっとも熱く燃えるRPGをやり続けたのである。

ある敵と戦えば飛ぶ。魔法を使えば飛ぶ。逃げても飛ぶ。
なら、敵が出なくなる魔法を使えばいいじゃねーか・・・って歩いてるだけでも飛ぶ。
挫折と前進を繰り返し、ついにビデオが完成した。朝6時のことである。
Dは、のこのこと午後1時過ぎにやってきた。
「あんなにバグあったのに、終らせたの? やるじゃない」
当然だ。俺はデバッグのプロなのだから。
「今度は、全部の魔法を100回ずつ試してダメージの平均と成功率を出してね」
結構凄いことをあっさりと、当然録画ですか、OK。

ところで、デバッガーには俺を含め3人が雇われたのだが、後の二人は企画志望で入っていた。
「後で企画をやらせてやるから、今はただで働け」ということで、彼等は無給である。
ちなみに、俺はデバッガーで入ったから時給は750円だ。
「君の働き次第では給料アップも当然あります」
その言葉の裏に隠された、真の意図が明らかになるのは、4ヵ月後のことである。


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もっとバカなのは、この日記をコピー誌としてコミケで売ろうとしたことだよなー。ファイナルバカデスネー。

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1996年8月上旬・1

 さて、デバッグの手順を説明しておこう。
 まず、俺の直属の上司に当たるDから依頼された作業をやる。
 例えば、魔法が仕様書通りに動いてるか、ダメージはどのくらいとか、調べたりするわけだ。
 バグを発見したら、デバッグシートと呼ばれる紙に、”止まる等””気になる””要望”の3つのレベルに分けて、事細かに記入していくわけである。

「まっつぁん、プログラマーとかグラフィッカーに直してもらうんだから、感謝の気持ちを込めて、丁寧な言葉で書くようにね」
 取締役がそう言うので、最初の頃こそまじめに書いていたのだが、時が経つにつれてだんだんなめた口調になってきて、最後は、「直し・・・やがれぇ」状態である。

 Dの部下のナルシストOいわく、
「いやー、まっつぁんは結構ひどい奴だと思うけど、ちゃんと働いてるってみんな知ってるから、何も言わないんだぜ」
 むー、どう応えていいんやら。読者も笑いどころに困るではないか。
 落としどころとヨイショは使い分けないと、メリハリがなくなっていかん。
 だから、こういう場合は、
「いやー、まっつぁん最低ヤローだし、誰にも止められないよ。足も臭いし」
 というふうに落とすだけ落としておいてから、
「デバッガーのくせに偉そうだし、独り言はやかましいし」
 てな感じでヨイショして・・・ない、うーむ、俺ってばひどい奴?

 俺の人間性と足のムレ具合がさらけ出されたところで、説明を続けよう。
 デバッグシートには”バグが出る確率”という項目がある。
 ここには、”100%”とか”規則性がある”とか”再現性なし”とか書くわけだ。
 この”再現性なし”がクセもので、たいていはデバッガーの手違い、間違い、勘違いだったりする。だが、ごくまれに100回にいっぺんしか出ないようなバグだったりするのだ。
 その場合、原因が分かるまで延々とバグが発生した行動を繰り返さなければならない。
 もっとひどいのは、原因が分からずいつの間にか出ているバグである。
 デバッグをしているWという性格のいい女の子がいる。彼女はサブアートディレクター、美術助監督的な立場で仕事をしていたのだが、仕事が終わったので、シナリオ関連のデバッグに回されてしまったのだ。
 ゆえに、シロートデバッガーの彼女が書くデバッグシートには「いつの間にかバグった」系が非常に多い。
 それをどんな状況で発生するのか、全て確かめねばならないので、かなりきつかった。
 中でも苦労したのが「いつの間にかMAXHPが255になってしまっていた」である。
 とにかくどんな状況でそうなるのか皆目見当がつかないので、手あたり次第やってみたものである。
 結局、「戦闘から逃げる」とバグることを突きとめたが、そんなもの録画しながらやれば一発じゃんとか思うだろ?
 金がなくて、ビデオも揃わなかったのだそうだ。
 貧乏金なし、である。

 さて、デバッグシートはディレクターDかナルシストOに渡り、そこで彼らのチェックを受けることになる。
 止まる・飛ぶバグに関しては、プログラマーのほうにシートが回される。だが、気になるバグは気のせいドリアードとして軽視されたり後々までほっとかれたりと、かなりひどい扱いになる。要望などにいたっては9割方なかったことにされた。
 要望を通すのに、俺は一計を案じた。
「1000枚くらい書けば、1割でも100枚通る」
 思い立ったら即実行。
 俺は土日に出社して要望を書きまくった。
 その数およそ200枚。40時間以上かけた大作である。
「○○(名古屋のパロディ)の宝箱には758ゴールドを入れてくれ」
「”胸が一杯で何も言えません”という台詞は矛盾しているのでカットしてくれ」
「小さい頃に着ていた服を大きくなっても着ているのは変だから、直してくれ」
「武器をはずすとなぜ命中率が0%になるのでしょう」 
 などなど、一発ネタから言いがかりまで、幅広く取り揃えてみた。
 月曜日、のこのこ出てきたD&Oは、シートの量を見て面食らった。
「まっつぁん、ここまで書く?」
 当たり前だ。俺は目的のために自分の全てを犠牲に出来る。
「分かった。後で読んどくよ」
 それからしばらくして、デバッグシートが戻ってきた。プログラマーやD&Oが「直したぜー」と書いたシートがあったら、バグが直ってるかどうか確認するためである。
 要望には全てDのコメントが記されていた。
 結構まめじゃねえかと思いつつ、読んでみた。
「仕様です」
「大人になってから、新しく買い替えたのです」
「無理です」
「ちょっと考えてみます」
 ・・・結局、要望が通ったのは「758ゴールド」など、わずかなものであった。
 判った。一割ではなく、常に5~7枚なわけか。
 頼むから、もうちょっと何とかしてくれ。


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二人からの返事を見直すと、意地を張っているとしか思えませんなあ。
あ、DさんおよびOくん、今はもう何ら含むところはありませんのでご安心を。

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