振り返ってみれば、ゲームのバグは常に私の身近にありました。小学生時代、友人が『パックマン』をプレイしてくれたのを見ていたんですね。忘れもしない2面、イチゴボーナスの面ですよ。彼は、1面のパーフェクトなドットイートとは全く違う、ランダムな動きをしはじめました(私にはそう見えたんです)。なんだろうと思ってみていると、そのまま"まちぶせPINKY"に体当たりしていったんですよ! しかし、そこでありえないバグが起こったんです。なんと、パックマンがPINKYをすり抜けるじゃないですか!
「パターンだよ」
彼はこともなげに言いました。いわく、そのとおりに動けば100%すり抜けるんだとか。私も当然、その攻略パターンを真似してみました。
「すり抜ける! すげー、すり抜けたよ!」
「な?」
この時、私にとってバグは、「狙って出せるもの」であり、「通常ではありえない興奮をもたらすもの」であり、かつまた「利用すべきもの」として刷り込まれました。だから今も、商品として売られているゲームや、ソフトウェアが組み込まれた製品でバグが出るのを見ると、「ちゃんと仕事しようなー」と思いつつも、ノスタルジックな思いにもとらわれてしまい、「ま、いっか」っていう風になってしまうんですよ。
実を言えば、いま私が使っている携帯にも、ブラウザで100%出るバグがあるんですね。あることをしていて見つけたんですけれども、あまりにもシンプルな手段できれいにリセット→再起動するんですよ。だから、この携帯は機種変もしないで使い続けてますし、ことあるごとに、友人や知人にそのバグを披露するんです。
「こういうバグを残さないように、デバッガーは日夜がんばってるんですよ」
みたいな感じですね。
一方、バグ出しを仕事にしている時は、もちろんバグを出さないようにしなくちゃいけませんから、まさに「根こそぎ」、しらみつぶしに出来ることを行っていきます。まあ、これがまた楽しいんですよ。バグそのものもありえない現象だらけで楽しいんですけど、プログラマーさんや納期を守ろうとするディレクターさんとのやりとりがまたいいんです。直すか、壊すか。どのタイミングで報告すれば直されやすくなるのか。どう報告すれば重そうなバグに見えるのか。バグでゲームが出来なくても、それをすりねけてバグ出しを続行するにはどうしたらいいのか。ちょっとした頭脳戦、心理戦ですよ。
また、ゲーム会社の上司に言われたセリフをいまも鮮明に覚えています。
「『ドラクエ』なんて大変なんだよ。何百万人ものプレイヤーにデバッグされるんだから」
これに私はビビっと来ました。
「よし、何百万人がさわっても、びくともしない完璧なものにしてやろうじゃないか!」
燃えましたね。人生をかけてやろうと思いましたもん。
それに当時、バグ出しの社会的評価はとてつもなく低かった。だから、そこで完璧な仕事をすることで、その評価自体を上げていこうと思ったんですね。それもまた、燃える感情をさらに持続させるための燃料になってくれたものです。
ところで、バグ出し以外の仕事をやりはじめるようになると、やっぱりなかなかうまく行かないんですよ。なんつっても燃えない。私を奮え立たせてくれるものがない。だから悩むし、ぜんぜん仕事もうまく行きませんでしたね。が、ある時、ぱっと気がついたんですよ。
「バグ出しの考えかたを使えばいいんじゃん」
それはすなわち「根こそぎ」。1つの事柄に対して、あらゆる角度、あらゆる考えかたで、様々な自分が出来うることのバリエーションを考える。その時々に応じて、その最適な行動をしていけばいい……ってことなんです。
だから、ファミプロの仕事では、数ある遊びかたを考える中で、最も"アホやなぁ"と思ってもらえるための遊びかたを選んでやってます。ゲームライターとしての個を確立させる合言葉は、「損して得取るな」。日常生活も笑えまして、新聞や小説を見るときなんかもアホですよ。まず誤字探しから入りますから。あと、ロジックの破綻とか。先日も、1面広告のキャッチコピーが「Fainal Campaign」なんてつづりになってて、思わずそういう単語があるんかと思って辞書を引いちゃいましたからね。もちろん、その記事は切り抜いて大事に保管してあります。キャンペーン第二弾は「Fbinal」なのかしらん、とか思うだけで楽しいんです。
また、趣味も根こそぎ。RPGとくっつけたゲーム一覧とか逆転の発想で作られたゲーム一覧とか、スーパーマリオ100の世界の遊びかたとかファミコン年表完全版"とか、やる時は徹底的にやっちまいますね。
当時、ゲーム会社の社長に言われた一言がいまも支えになってます。
「○ちゃんは、一生、50や60になってもデバッガーでいるつもりなの?」
いまなら胸を張って答えます。
「ええ、その考えかたで何でもバグ出ししてみますよ。うひひ」
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ゲームのバグを出す話
ゲームのバグだしについて考える。
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