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「全ファミ。」ブログ編

デバッガー時代の日記が出てきました・その3

まだまだ続くデバッガー日記。

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9月10日

デバッグはまだ続いている。このころになると、一日平均17時間労働である。金曜日には家に「出掛け」、土曜日にまた会社に「戻って」くる生活が続く。それ以外の日は実質21時間労働だ。
しかし、俺のデバッグの能力は一向に衰えることがなかった。「まっつぁんに出せないバグはない」とまで言われたほどだ。俺が見つけなかったバグをプログラマーが先に見つけたとき、「いやー、まっつぁんに勝ちましたよぉ」と嬉しそうに言われたものである。

この頃になるとバランスこそ取れていないものの、ほぼ完全に通しプレイが出来るようになっていた。そこで、ゲームそのものを分析してみることにした。
まず、音楽がよくない。容量をケチり過ぎている。また、グラフィックもかなりしょぼい。キャラデザが激怒しているという。肝心のシナリオだが、なんかこう、全体にのんびりした印象しかない。「征服しにきている」ということを忘れてんじゃねーのか、と思うくらい、敵の戦略に整合性がない。主人公が大暴れしてるんだから、敵から直接的なアプローチがあってもいいと思ったりするのだが。
ただ、会話はさすがに本業の人が作ったとあって、かなり楽しめる。「はい/いいえ」への対応も考えられており、お姫様との会話では、全部の「はい/いいえ」を試すはずである。
そこで、俺は全てを監修しているKという有名な人に意見状を出した。「Kさんの世界を味わってもらえるようにするために、今後は徹底的に会話を楽しませるRPGを作ったほうがよい」というような内容だったが、届く前に揉み消されたようだ。
もちろん、彼らは理想を追求するために作っているし、下っ端がぐだぐだ言ったところで聞くはずはないと思う。ただひとつ、「やりたいこと」と「できること」、さらには「彼らの能力が最大限活かされること」の見切りをしっかりつけてもらいたいものである。

ところで、実はイベントの数がすでにある分の10倍も存在していたことが判明した。グラフィックもまた然りだという。(使われなかったイベントが山ほどあるわけだ)。ようするに、誰もゲームの事を知らないで作っていたわけだ。かっこいいね。

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9月下旬
策士がやめることになった。
ほんのお手伝いということで来たのに、時給700円で1日15時間も働かされ(働かせたのは俺だ)、シタッパーズと交互に泊まらされ、いやになったという。
「最初、時給の話を聞いた時点で断われば良かったんですけど、人の紹介で来たわけだし、迷惑を掛けちゃあ悪いと思って」
うぅむ、礼節を知る男である。しかし、そうとも知らずこき使ってしまって悪かった。さらば、策士よ。今度来るときは、時給交渉はしておけよ。

さて、メーカーに提出するためのサンプルバージョンの戦闘バランスを取ることになった。これは、極めて普通の状態でゲームを進めていき、弱いと思う敵は、素早さを上げてうっとうしい奴にしたり、固すぎるやつは、こっちが受けるダメージを低めに設定して、弱点を用意したりする作業である。
特にボス戦には気を使った。このゲームは数多くの特殊攻撃が存在しているのだが、これの計算式がおかしく、ボスに完勝してしまうことがままあったからである。結局、ボスにはほとんどの特殊攻撃が効かないようにされたため、それらはかなり存在価値の薄いものになってしまったが。まぁ、作ったスタッフがRPGに慣れていなくて、こういう事態が起こるのを予期できなかったとは思う。だが、これを買う人のことも考えろといいたくなる。

ところで、俺は「一歩歩いてすぐセーブ」する必要があるほど、敵が強いパソコンRPGが大好きだ。そこで、このRPGもそういうバランス調整を目指してみた。しかし、自分が持てるすべての能力を使いこなせば、たとえレベルが低くても、進めるように心がけた。現状を把握し、創意工夫する。これがゲーム本来の楽しみ方だというポリシーを持っているからである。
だが、メーカーからの返事はこうだった。
「ウチではこの商品は子供向けという認識で捉えている。そのため、このようにすべてを使いこなせないと先に進めないようなゲームは困る」
おぉ、これがかの有名なNチェックか! それはさておき、また、バランス取り直しですか。貫徹3日の努力は軽く飛びである。

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10月上旬
テストプレイヤーが大量に雇われて、最終的な仕上げ段階に入ってきた。
ウチの会社には彼らを働かす場所がないので、クライアントが入っている新宿の高層ビルの、奥行きが25メートルもあろうかという、空き部屋の片隅を間借りして行うことになった。

俺も、そこでデバッグすることになった。
だが、なぜかクライアントの担当部長は俺を無視し続けた。
会釈どころか、俺と目線すら合わせようとしなかった。
後で知ったのだが、ウチの会社とクライアントは、法廷闘争になる直前まで関係が悪化していたらしい。だから、担当は、単なるバイトデバッガーである俺を、ウチの会社の社員と解釈して、冷淡な態度を取っていたようだ。ちなみに、その態度は、アートディレクターが担当に事情を説明するまで続いたものである。

さて、当初、テストプレイヤーへの報酬は「小僧寿司で寿司をおごる」だけだったらしい。が、テストプレイヤーのしごく当然の要求により、クライアントとシナリオ担当会社から時給五百円が支払われることになった。
ウチの会社は全く金を出せない状態だったらしい。
開発期間が大幅に伸び(この間の金はクライアントは出していないので赤字だろう)、さらには超高給取りの俺がいたためである(ほんとかよ)。
確かに月37万貰うデバッガーはそうはいないと思うが、固定給スタッフから随分恨まれていたらしい。

だが忘れるな、俺の時給を、そして、月517時間という労働時間を。

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10月上旬・2

再びバランス調整が行なわれることになった。
しかし、俺が調整するとまずいと判断したらしく(薄いストーリー性をせめてゲーム部分でカバーしようという心配りだったのだが、どうやらだれも理解しなかったようだ)、営業部長がやることになった。

はっきり言ってめちゃ甘いゲームバランスである。
確かにこれならさくさく進むけど、こんなに遊べる部分がないゲームでいいのか?
「いやあ、このゲームはほかのRPGと比べても全然良いっスよ」 
担当部長が独特の口調で俺達の同意を得ようとしていたが、どこらへんが他のRPGよりいいのか、きちんと説明しなさい。

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10月上旬・3

このころになると、ディレクターは全く職場に姿を現わさなくなった。
後はデバッガーに任せて、私達は2年間の疲れを取りましょうみたいな態度が見えて、不愉快な気持ちになったものである。
で、今やってる仕事があまりにも単調で精神がぶっちぎれてきたため、ナルシストOと共に仕様を勝手に変え、メッセージを変更し、隠れキャラまでぶちこんだ。
ラスボスの攻撃を持つ雑魚キャラ、である。
世界観?知らないね、そんなものは。
精神生命体のラスボスに毒や素手なぐりがなぜ効く?
俺は好きだが、いっくら何でもまずいだろうが。ラスボスくらい、きちんと調整しようぜ。

さて、精神がぶっちぎれる作業とはこれだ。
世界マップの全ての場所を一歩ずつ歩いて、地形のアトリビュート(当たり判定)および戦闘時のBGが地形と同じがどうか調べるという、それはそれは単調な作業だ。しかも滅茶苦茶ポイントが多く(その数何と250000!)、テストプレイヤー全員で行っているため、作業場全体の雰囲気が暗く落ち込んでいるからである。
専用ツールを作れば解決するのだろうが、プログラマーもほとんど来なくなっていた。どうしようもないため、ナルシストOがプログラムを肩代わりしていた。
Oの怒りもまたすさまじい。
Oは、月に400時間働いたが、10万しか貰えなかった。
時給にして250円!あの、GS美神の横島君より安い。
Oはこのプロジェクトが終わるといつのまにか辞めてしまっていた。
が、辞める前に取締役と「10時間話したい」と言って12時間ほど話したそうだ。よっぽどうらみつらみが積もっていたに違いない。

ちなみに、250000ポイントのうち、たった一個だけミスが見つかり、作業場は大歓喜した。
だが、そこが直された記憶はない。

レ、ミゼラブル!

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10月下旬

ついにマスターアップの日がやってきた。

マスターアップの度重なる延期に誰も彼も疲れはてていたが、今日こそ最後!という気合いだけが皆を動かしていた。
「じゃ、まっつぁん、これを提出するから、最後まで動くかどうか確認してみて」
ということで、俺が通しプレイをすることになった。
5時間経過。
もう何百回も通ったお馴染みの道を通り、中盤に通り過ぎようとしていたときである。
ジュースでも飲んで一息つこうと、椅子から立ち上がったその瞬間。
なぜかいすにスーファミのコードが引っ掛かっており、本体が床に激しく叩きつけられたのである。
俺は激しく動揺した。
なんもないだろうと思ってセーブなんぞしていなかったからである。
「いやー、済まんス。もう一回最初っからになっちゃいました」
営業部長にそう言うと、もう一度序盤からやり直すことにした。

3時間後。
ジュースを買っていなかったことに気付いて、いすを引いて立ち上がり、一歩歩いたその瞬間。
電源コードの位置が先程の落下で普段とずれており、今度はそこに足を引っ掛けてしまったのだ。
スーファミ、再び落下・・・。
「まっちゃ~ん」
営業部長やアートディレクターの冷たい視線にもめげず、笑ってごまかすと、三度最初っからプレイである。

「終わったーっ」

ラスボスを裏技を使って倒し、さあこれを提出だという運びになった。……のだが、ここで事件が起こる。
クライアントのお抱えデバッガーで、古いバージョンのロムでもエンディングまで行かないと新しいヴァージョンではプレイしないため、いつも古いデバッグシートを提出して俺達を苦しめぬいた通称「マッキー」が、マスター提出直前に世にも恐ろしいバグを発見したのだ。
彼は俺達に申し訳なさそうなツラをしながら、「俺が発見したんだぜ、どーだ、へへ」という自信に満ちた挙動で俺達にそのバグを披露した。
そのバグとはこうだ。FFでいうところのアビリティポイントを極限までためず、レベルアップしないように進むと、NPCが仲間になったところで、そいつの所持アビリティ表示がぶっこわれるという怪奇現象である。

スタッフは頭を抱えた。
何しろ、プログラムレベルで修正できる人間が誰一人としていないからである。
「仕方がない。絶対レベルアップするように、序盤のボスにアビリティポイントを多めに割り振ろう」
ナルシストOが最初の中ボスに約3倍ものアビリティポイントを追加。時間も押し迫ってきていたため、そこで調整を打ち切ってしまうことにした。
「ま、しょうがないよ。他に直しようもないし」

俺のからんだゲームで未調整部分が残るとは・・・。無念である。

さて、マスターアップ後、打ち上げが行われた。
アートディレクターのKは、半泣きが入った状態で俺に絡んできた。
「君に言ってもしょうがないけど、(かかったお金が?)1千万だよ、1千万!ウチがこんなに苦労してんのに、なんでこうなっちゃったのかなあ」
話によると、Kがアートディレクターになったのは、グラフィックを監修する人間がだれもいなかったからなのだと言う。
だから、橋渡し役に過ぎなかった彼が担当になるまで、誰もチェックすることなく、グラフィックが作成され続けた訳だ。

めちゃくちゃだよな、このゲーム。

さて、ここで全ての作業終わったと思っていた。……のだが、それはウチの会社でやるのが終わったというだけで、実はまだ全然終わっていなかった。というのも、あまりのつまらない出来映えに、N社から受け取りを拒否されているらしい。
もともと、現バージョンの10倍の規模があったゲームだったそうだし、上位機種で発売すべく、作りなおしているのかもしれない。

会社を辞め、シナリオを作ったところと契約を結んだナルシストOだが、彼と電話で話したことがある人間の話によると、どうやらものすごく忙しいらしい。
近頃はいつ電話を掛けても出ない状況のようで、「ゲーム制作が終わっていない」という推測はそこいらからである。

もう企画がたってから4年が過ぎようとしているゲーム。
「船頭多くして舟、山を登る」の意味がはっきり判るゲーム。
いやあ、ゲームって本当に面白いですよね、特に人間模様が。

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デバッガー時代の日記が出てきました。
デバッガー時代の日記が出てきました・その2
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デバッガー時代の日記が出てきました・その2

過去のデバッガー日記、続き。

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1996年8月上旬・2

 プロジェクトの主要メンバーが、フィールド関係をプログラミングしている会社に集団移動した。集団移動というより、押しかけたといったほうが正しい。プログラマーHのあまりの仕事の遅さに業を煮やしたからである。
 一駅離れたその会社に行ってみた。12畳ほどのマンションの一室に14人がひしめいており、テレビやらパソコンやらがトーテムポールを形成していた。地震が来たら10HIT即死級コンボは間違いない。
 企画志望のデバッガーズ(別名シタッパーズ)は、トイレの前のスペースに直に座り込んでワープロ打ちなんかをやっていた。宝箱の配置とか、そんなやつである。一応企画っぽいことをやっているのだが、やっぱり無給のままであった。ちなみに、俺はそこには行かずひたすらデバッグである。
 このころには家に帰る時間もなくなってきたので、会社に1週間泊まり込んでいた。風呂は近所の銭湯、洗濯はコインランドリー、コンビニの白飯と納豆とあさり汁で3食を済ます。
「毎日3食同じでよく飽きないね」と食うたびに言われたが、何を言ってるか、である。俺は、バイト先の立食いそば屋で2年間そばとうどんとカレーだけで生きていたのだ。しかも、働いている時間内にしか食えないから、一時間の休憩中に一日分食った。休みの日は、前日に食いダメ&持ち帰りである。それから考えれば、納豆という日本料理の最高峰を毎日食えるのだから、贅沢すぎだろう。
 
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関係者がこの一文を読むと、どこのことだかすぐにわかるよねー。

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8月上旬・3

 シタッパーズの一人が別プロジェクトに移動した。企画としてではなく、Macが使えるからという理由で、グラフィッカーとしてである。人生なんてそんなもんだ考えようによっちゃあ、グラフィックも書ける企画になれるかも知れないから、ポイント高いぞ。
 ところで、このRPG、内容は平凡以下だが、ここに至る経緯、作っている体制はかなり複雑で、ゲームの百倍はドラマチックと言っていいだろう。この現状をゲームにしたほうが売れるんじゃないか?

 さて、仕事のほうだが、ステータス優先順位の設定を始めた。たとえばファイナルファンタジーで、目が見えない状態でなおかつ混乱している、なんていう状態がある。そういう全ての組み合わせが設定通りに動いているのか、表示されているのかどうかチェックするのだ。ステータスが40種類ほどあるので、組み合わせはなんと1600以上。こういうのは普通、何人も人を雇って調べる。が、大幅に開発期間が延びており、経費削減のため二人しかデバッガーがいないのだ。大変に素敵な状況である。
 作業は、はっきりいって手ごわい。まず、敵のステータス関連攻撃を喰らうまでガードし続ける。ステータス異常になったら、それが続いている間に、別のステータス異常の攻撃を喰らうわけだ。戦闘では敵は選べるのだが、やってくる攻撃までは指定できないので、結構大変である。ステータス異常攻撃を受けた直後に、以前のステータス異常が回復してしまうなんてこともざらにあったのだ。
 なかでも、「”混乱”に何かをかける」のには参った。
 混乱するとキャラクターを操作できなくなるため、攻撃してもらうモンスターを殺してしまうことが非常に多くなるからだった。レベルを下げると、今度はモンスターに殺されてしまったりして、微妙な調整に苦労したものである。
 さらに、確認のため、五回くらい同じことを繰り返さなければならない。かように素晴しい作業なので、とにかく時間がかかる。俺は給料が出ているので別になんでもなかったが、さすがにシタッパーはかなりやる気を失っていた。
 だが、こういう時期だし、一日ごとに泊まってもらう。それが仕事ってもんだ。


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これ、ちなみに、回復率80%のステータスは、ちゃんと80%くらいの割合で回復してました。ランダムはちゃんと動いていたんやねえ。

ゲーム製作現場はドラマチックだったけど、下手すると訴訟モンだったしねー。いやはや何とも。

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8月中旬

 レベルアップまでの経験値を決定するため、FFの経験値を調べることになった。
 ゲームを最初からやる訳にも行かないし、攻略本には載っていなかったので、X-TERMINATORサスケを使うことにした。いわゆるスーファミソフト改造ツールである。
「次のレベルアップまで」の経験値をサスケで打ち込み、経験値を調べる。……のだが、さすがに俺もこのときには、なんてローテクな会社なんだろうと思ったものである。ま、だからこそ、俺みたいなデバッガーが必要なんだろうが。
 なんでFFかと思っていたら、Oが、これを参考にしてゲームを作ったんだと自虐気味に言っていた。
 戦闘の計算式なんぞは、プログラムを解析してそのまんま使っているそうだ。
 解析して作った割には、全然面白くないし、有効に動いてないし。
 ついでに経験値も解析しときゃよかったのに。

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普通はデバッグ用の環境を作って調べるんだけどね。おかげでデバッグ能力は高くなりましたよ。

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8月下旬

 新しいデバッガーがやってきた。以前はヒューマンとエニックスでデバッグをしていて、今回はシタッパーの紹介でここにきたそうである。
 話をしてみたが、なかなか頭の切れるにーちゃんなので、策士と呼ぶことにした。
 さて、策士はファイヤープロレスリングシリーズのデバッグをしていたという。あのシリーズには致命的なバグが当初からあり、それを直さないで、いつまでも同じプログラムでゲームを作っているそうだ。そのため、ユーザーから「俺の時間を返せ」とか「ヒューマン、貴様を許さない」という心のこもったメッセージがよく届くそうである。
 ところで策士がやってきたのは、ディレクターDが間違った組み合わせ設定で、俺達にステータス優先順位を調べさせていたためだ。つまり、全て最初から調べ直しになってしまったからなのである。
 こーゆーミスが積み重なって発売延期になるに違いない。
 で、Dが新しく作ったステータスの優先順位表そのものをデバッグしてみた。
 机上デバッグといって結構重要な作業であるが、基本的なミスをしているところがあったので、校正してDに手渡した。
「あ、なるほど、こういう考え方もあったのね。ふーん。でも、こういうことができるデバッガーって貴重なのよね。ありがと」
 ストーリーの世界ではこんな些細なことから愛だの恋だのに変化・発展していったりするわけだが、俺達にそんな展開は絶対にありえないし、そうなることも望んでいない。
 俺は、ゲームが恋人であり、完成度の高いゲームを作ることだけが生き甲斐である。
 友人いわく、「前はアテナが最高だとか言ってたじゃねえか」
 うるさい。名字が那須だからといってそれに引っ掛けて看護婦になった妹がいるヒトに言われたくない。
 書き忘れていたが、策士はコナミが発売している「必殺」というコントローラーを愛用している。これは、コマンドを憶えさせておき、あとは自動的にそのコマンドを実行してくれるという「RPG夜寝てる間にレベルアップ」という代物である。
 俺も気に入ってしまい、速攻ゲットした。
 別にレベルアップさせるわけではないが、一定のことを繰り返すデバッグにはもってこいのアイテムと言えよう。 


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必殺は不具合いっぱい見つけてくれたなあ。フリーズバグを100%再現してくれるのはありがたかったねー。


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デバッガー時代の日記が出てきました。

デバッガー時代の日記が出てきました。

面白いので転載。

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1996年6月下旬

 フロム エーに「RPGテストプレイヤー募集」を見つけた。
 メインは企画/プログラマーの募集だが、これまでの経験でどちらもできないことを悟っている俺にはテストプレイヤーしかなかった。
 早速電話をかけてみた。
「あなたは企画のほうでやっていかれたいのですか?」
「いえ、私は生涯一テストプレイヤーでいきたいと思っています」
 電話先の人物は俺に興味を持ったようだ。あっさり面接の日時が決まった。

 面接といえば、光栄を受けたとき、実力テストのようなものを受けさせられたが、「こんなもので俺の能力は測れねえ」と用紙に書き、5分も経たないうちに退出した記憶がある。
 で、大小様々な会社を受けたがことごとく落ちたので、追いつめられた俺は、とある会社にスキンヘッドで面接に行くことを決心したのだ。
 スキンヘッドという特殊な容姿で面接を受けることで、「採るか、採らないか」の選択の余地を自ら狭める背水の陣。それは見事に当たり、ばっちり採用されたのだった。
 そこはAという小さな会社だったが、企画志望だったのにプログラマーにされてしまう。さらに、ストレスで本当にスキンヘッドになりはじめたし、あまつさえ残業代も出なくなったので、あっさり辞めてしまった。

 その後、様々なイベントが俺を待つのだが、それはさておき面接である。
「君だよね、生涯一テストプレイヤーっていうのは」
「そうです」
 そこから俺の売り込みが始まった。
 RPGは100本くらいやったこと。
 複数のマシンで同時にRPGをプレイできること。
 一日20時間、一週間通して働けること。
 デバッグに命を懸けていること、などである。
「君、落語家みたいで面白いね」
 一生懸命な奴ほど愉快に見えるってやつか?
 ま、褒め言葉と受け取っておこう。
「君がヤル人だというのはよく分かりました。後は、デバッグっていうのは腰の低さと協調性が重視されるわけだけど、その点、君の軽そうな感じがちょっとね」

 弱点をつかれた! 

 だが、ここであせっては好印象も無になってしまう。
 俺は落ち着いたフリをして答えた。
「大丈夫です。私はプロのデバッグですから」
 冷静になって考えてみると、金ももらってないのにプロもヘッタクレもないのだが、生涯一が決め手だったようだ。
 今まさに、俺のデバッグロードが始まろうとしていた。


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勢いとインパクトだけで勝負やねぇ。いやあ、今も昔もバカデスネー。

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1996年7月下旬

スタートからラストまで通しプレイをビデオに取るようディレクターのDに指示された。
俺は、意気込みを見せるべく、ディレクターに言ってみた。
「デバッグは100%任せてください」
Dは、冷ややかな目で俺を見て、口を開いた。
「200%任せられるかどうかはあなた次第だけどね」
人を見下すこのしゃべり。俺とOは”凍てつく波動”と名付けて恐れたものである。
ま、さらりと聞き流して通しプレイを始めてみた。
4時間後、あっさり飛んだ。
ディレクターがにこにこしながら、俺に話しかけてきた。
「あ、それバグがあって結構大変だと思うけど頑張って録画(と)ってね。もちろん、最初からよ」
熱いことを言ってくれる。
修羅場になればなるほど強くなる俺の底力を見せてくれよう。
それから数日、これまでのゲーム人生の中で、もっとも熱く燃えるRPGをやり続けたのである。

ある敵と戦えば飛ぶ。魔法を使えば飛ぶ。逃げても飛ぶ。
なら、敵が出なくなる魔法を使えばいいじゃねーか・・・って歩いてるだけでも飛ぶ。
挫折と前進を繰り返し、ついにビデオが完成した。朝6時のことである。
Dは、のこのこと午後1時過ぎにやってきた。
「あんなにバグあったのに、終らせたの? やるじゃない」
当然だ。俺はデバッグのプロなのだから。
「今度は、全部の魔法を100回ずつ試してダメージの平均と成功率を出してね」
結構凄いことをあっさりと、当然録画ですか、OK。

ところで、デバッガーには俺を含め3人が雇われたのだが、後の二人は企画志望で入っていた。
「後で企画をやらせてやるから、今はただで働け」ということで、彼等は無給である。
ちなみに、俺はデバッガーで入ったから時給は750円だ。
「君の働き次第では給料アップも当然あります」
その言葉の裏に隠された、真の意図が明らかになるのは、4ヵ月後のことである。


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もっとバカなのは、この日記をコピー誌としてコミケで売ろうとしたことだよなー。ファイナルバカデスネー。

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1996年8月上旬・1

 さて、デバッグの手順を説明しておこう。
 まず、俺の直属の上司に当たるDから依頼された作業をやる。
 例えば、魔法が仕様書通りに動いてるか、ダメージはどのくらいとか、調べたりするわけだ。
 バグを発見したら、デバッグシートと呼ばれる紙に、”止まる等””気になる””要望”の3つのレベルに分けて、事細かに記入していくわけである。

「まっつぁん、プログラマーとかグラフィッカーに直してもらうんだから、感謝の気持ちを込めて、丁寧な言葉で書くようにね」
 取締役がそう言うので、最初の頃こそまじめに書いていたのだが、時が経つにつれてだんだんなめた口調になってきて、最後は、「直し・・・やがれぇ」状態である。

 Dの部下のナルシストOいわく、
「いやー、まっつぁんは結構ひどい奴だと思うけど、ちゃんと働いてるってみんな知ってるから、何も言わないんだぜ」
 むー、どう応えていいんやら。読者も笑いどころに困るではないか。
 落としどころとヨイショは使い分けないと、メリハリがなくなっていかん。
 だから、こういう場合は、
「いやー、まっつぁん最低ヤローだし、誰にも止められないよ。足も臭いし」
 というふうに落とすだけ落としておいてから、
「デバッガーのくせに偉そうだし、独り言はやかましいし」
 てな感じでヨイショして・・・ない、うーむ、俺ってばひどい奴?

 俺の人間性と足のムレ具合がさらけ出されたところで、説明を続けよう。
 デバッグシートには”バグが出る確率”という項目がある。
 ここには、”100%”とか”規則性がある”とか”再現性なし”とか書くわけだ。
 この”再現性なし”がクセもので、たいていはデバッガーの手違い、間違い、勘違いだったりする。だが、ごくまれに100回にいっぺんしか出ないようなバグだったりするのだ。
 その場合、原因が分かるまで延々とバグが発生した行動を繰り返さなければならない。
 もっとひどいのは、原因が分からずいつの間にか出ているバグである。
 デバッグをしているWという性格のいい女の子がいる。彼女はサブアートディレクター、美術助監督的な立場で仕事をしていたのだが、仕事が終わったので、シナリオ関連のデバッグに回されてしまったのだ。
 ゆえに、シロートデバッガーの彼女が書くデバッグシートには「いつの間にかバグった」系が非常に多い。
 それをどんな状況で発生するのか、全て確かめねばならないので、かなりきつかった。
 中でも苦労したのが「いつの間にかMAXHPが255になってしまっていた」である。
 とにかくどんな状況でそうなるのか皆目見当がつかないので、手あたり次第やってみたものである。
 結局、「戦闘から逃げる」とバグることを突きとめたが、そんなもの録画しながらやれば一発じゃんとか思うだろ?
 金がなくて、ビデオも揃わなかったのだそうだ。
 貧乏金なし、である。

 さて、デバッグシートはディレクターDかナルシストOに渡り、そこで彼らのチェックを受けることになる。
 止まる・飛ぶバグに関しては、プログラマーのほうにシートが回される。だが、気になるバグは気のせいドリアードとして軽視されたり後々までほっとかれたりと、かなりひどい扱いになる。要望などにいたっては9割方なかったことにされた。
 要望を通すのに、俺は一計を案じた。
「1000枚くらい書けば、1割でも100枚通る」
 思い立ったら即実行。
 俺は土日に出社して要望を書きまくった。
 その数およそ200枚。40時間以上かけた大作である。
「○○(名古屋のパロディ)の宝箱には758ゴールドを入れてくれ」
「”胸が一杯で何も言えません”という台詞は矛盾しているのでカットしてくれ」
「小さい頃に着ていた服を大きくなっても着ているのは変だから、直してくれ」
「武器をはずすとなぜ命中率が0%になるのでしょう」 
 などなど、一発ネタから言いがかりまで、幅広く取り揃えてみた。
 月曜日、のこのこ出てきたD&Oは、シートの量を見て面食らった。
「まっつぁん、ここまで書く?」
 当たり前だ。俺は目的のために自分の全てを犠牲に出来る。
「分かった。後で読んどくよ」
 それからしばらくして、デバッグシートが戻ってきた。プログラマーやD&Oが「直したぜー」と書いたシートがあったら、バグが直ってるかどうか確認するためである。
 要望には全てDのコメントが記されていた。
 結構まめじゃねえかと思いつつ、読んでみた。
「仕様です」
「大人になってから、新しく買い替えたのです」
「無理です」
「ちょっと考えてみます」
 ・・・結局、要望が通ったのは「758ゴールド」など、わずかなものであった。
 判った。一割ではなく、常に5~7枚なわけか。
 頼むから、もうちょっと何とかしてくれ。


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二人からの返事を見直すと、意地を張っているとしか思えませんなあ。
あ、DさんおよびOくん、今はもう何ら含むところはありませんのでご安心を。